やさしいビタミンCの知識

風邪とビタミンC

子供の頃,寒い冬に風邪のひきはじめの症状が出たときにはミカンなどビタミンCを多く含む柑橘系の果物を食べなさいといわれた経験があるのではないでしょうか.実際に多くの総合感冒薬(風邪薬)にはビタミンCが配合されています.
 しかし,頭痛,発熱,のどの痛み,筋肉の痛み,咳,くしゃみ,鼻水,鼻づまりなどといった,いわゆる風邪の諸症状の緩和に有効な成分としてビタミンCが配合されているわけではありません.総合感冒薬にビタミンCを配合する理由は,風邪により体内で失われたビタミンCを補給するためです.ビタミンCが失われる原因は,免疫系の活性化による体内で増加した活性酸素種の消去などがあげられます.

風邪の予防や治療にビタミンCが有効であるか否かは長い間,議論されてきました.しかし,未だビタミンCの有効性について結論を得るには至っていません.

2013年に報告された風邪とビタミンCに関するコクランレビュー(文献1)では,1日200 mg以上のビタミンCを用いたプラセボ比較試験に限定してビタミンCの効果を分析しています.臨床試験,29試験の参加者11,306人を比較した結果,普段健康な人がビタミンCを常時摂取しても,風邪の罹患率に変化は見られませんでした.一方,風邪9,745人を対象とした31試験の結果,日頃からビタミンCのサプリメント200 mg以上を毎日摂取している人は,わずかですが一貫して,風邪の症状の持続期間が短縮しました(下図).また,マラソン走者など強い肉体的ストレスにさらされている598人が参加した5試験では,ビタミンC摂取により風邪のリスクが半分に低下しました.


日本人を対象とした風邪とビタミンCに関する疫学研究もあります(文献2).
 秋田県にある村での無作為化した5年間の二重盲検,プラセボ対照試験より,ビタミンC投与(500 mg/日)は,風邪の発症頻度を20%も下げました.また,プラセボ群(50 mg/日)に比べて,3年間で2回以上風邪をひくのを66%も引き下げました.

このように,風邪に対するビタミンCの効果は,健常者か,風邪に罹患しているか,アスリートか,日本人か,などにより,結果が異なります.更なる明確な研究成果が待たれます.
しかしながら,効果の有無にかかわらず,私たちは,風邪により体内から失われたビタミンCを積極的に補給する必要があります.


【文献】

1) Hemila H, Chalker E (2013) Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev, CD000980

2) Sasazuki S, Sasaki S, Tsubono Y, Okubo S, Hayashi M, Tsugane S (2006) Effect of vitamin C on common cold: randomized controlled trial. Eur J Clin Nutr 60, 9-17

[石神 昭人]