やさしいビタミンCの知識

天然ビタミンCと合成ビタミンCは区別ができる?

「キング・コーン 世界を作る魔法の一粒」という映画をご存知でしょうか.大学を卒業したばかりの2人の青年が,共通のルーツを持つアイオワ州でトウモロコシを育て,収穫後の行方を追うドキュメンタリー映画なのですが,その中に2人の毛髪を分析した大学教授が,「結論だ.君たちの体はコーンでできている」と話すシーンがあります.これが何を調べた結果なのか,映画では殆ど(日本語字幕では全く)触れられていないのですが,これが今回のお話の肝になります.

“合成ビタミンC”って,どこで,どうやって作られるの? “天然ビタミンC”と同じなの?」にあるように,合成ビタミンCはトウモロコシに含まれる糖分が原料になっています.この糖分は大気中の二酸化炭素(CO2)を取り込み,光合成によって植物体内の決まった成分にくっつけることでつくられるのですが,多くの果物,野菜,イネや小麦(CO2をくっつけてできる物質が3つの炭素からなるのでC3型光合成植物と呼ばれます)とC4型光合成植物であるトウモロコシでは,この段階に全く異なる成分・酵素が使われることが知られています.

CO2をくっつけるという意味では同じことをする2つの酵素ですが,両者はCO2分子に含まれる炭素原子の重さによって受ける速度の影響が異なります.地球上に存在する炭素の99%は軽い炭素: 12C,残り1%の殆どが重い炭素: 13Cで占められているのですが,C3型光合成をする植物の酵素が12CO2をより好みするのに対して,C4型光合成をする植物の酵素は12CO213CO2もほぼ区別なく取り込みます.結果,植物体内の炭素に占める13Cの割合が,トウモロコシでは他の植物より少し高くなります.このため,トウモロコシの糖分を原料につくられる,合成ビタミンC中の13Cの割合も同様に変化します.

つまり冒頭のシーンは,毛髪に含まれる重い炭素の割合を,質量分析計という分子一つ一つの質量を測定する装置で調べ,主人公たちがトウモロコシを使った加工食品や,トウモロコシを餌に育った家畜をたくさん食べた結果,毛髪中の13C比率が高くなっていることを指摘したのです.

なおこのようにして区別はつくけれど,それは原料に使う植物種が天然ビタミンCと合成ビタミンCで異なることが原因であって,合成したものだから作用が異なるものになるということはありません.もしトウモロコシから天然ビタミンCを取り出せば,そこに含まれる重い炭素の割合は合成ビタミンCと同じです.また重い炭素の割合が違っても,体の中で起こるビタミンCの作用については全く違いがありません.

[尼子 克己]