やさしいビタミンCの知識

ビタミンCの分解(シュウ酸への代謝は?)

ビタミンC(還元型アスコルビン酸のこと)は強い還元力をもつためかなり不安定な化合物ですが,その還元性によって多様な生理作用を発揮しています.その働きの結果,ビタミンC自体は酸化されてモノデヒドロアスコルビン酸やデヒドロアスコルビン酸となりますが,これらの酸化型アスコルビン酸の多くは生体内に存在する還元剤や酵素の働きで再還元されてビタミンCに戻ります(「ビタミンCの還元型と酸化型とは?」や「動物でのビタミンCの酸化・還元系」もご覧ください).つまり,ビタミンCの生理作用の発現には,生体内における還元型と酸化型の相互変換が重要に関わっており,ビタミンCは再生されて利用されているのです.

しかしながら,酸化型のアスコルビン酸であるデヒドロアスコルビン酸も不安定な物質であり,中性条件下で加水分解されて2,3-ジケトグロン酸(以下,DKGと表す)に変化します.この分解反応が生体内でどれくらいの割合で起こるかは不明ですが,グルコノラクトナーゼ酵素(ビタミンCの前駆体の生合成経路にも存在する酵素です)によっても分解されることが知られています.この分解は不可逆な反応であるため,生成したDKG(炭素数6個の化合物)はさらに脱炭酸(炭素数1個が抜ける)を伴ってリキソン酸やキシロン酸(いずれも炭素数5個の化合物)に分解されると報告されています.これら炭素数5個の化合物への分解は肝臓などで酵素的に起こると考えられますが,さらに,ペットボトルの緑茶飲料に添加されたビタミンCの分解ではこれら2種類の化合物が保存中に増加することも報告されており,非酵素的に起こることも考えられます.

一方で,ビタミンCの分解産物としてシュウ酸が尿中に排泄されることも知られていますが,これはDKGの一部が非酵素的にシュウ酸(炭素数2個の化合物)とスレオン酸(炭素数4個の化合物)に酸化分解されるのであろうと考えられます.このことから,ビタミンCの多量摂取によってシュウ酸が生成し,尿路結石(主には不溶性シュウ酸カルシウムなど)の発生リスクが高まるという話(都市伝説?)がありますが,現在までの詳細な研究から,健常人では大量に摂取した場合にも尿中のシュウ酸はほとんど増加しないという結果が得られており(第十六改正日本薬局方解説書C-63―C-68(2011)に記載),シュウ酸結石の形成には至らないと結論されています.それより私たちのふだんの生活における食事(野菜)や飲料(緑茶,コーヒー,ココア等)に含まれるシュウ酸(水溶性シュウ酸塩)そのものが吸収されて血中濃度の上昇に影響する方がかなり大きいのです.ただ,ビタミンCの分解過程でDKGからシュウ酸が生成する可能性はゼロではないので,高シュウ酸尿症患者や腎障害患者などでは大量摂取に気をつけるべきでしょう.

体内に吸収されたビタミンCの半減期はヒトでは16日ほどであり,毎日一定量がDKGを経てこれらの2つの経路で分解されています.このため,ヒトは毎日ビタミンCを補充し続けなければならないのです.


[武藤 徳男]