やさしいビタミンCの知識

ビタミンCは何でアルファベットCになったの?

私達は自分の健康と健康維持に必要な生活活動のために,毎日の食事から各種の栄養素を過不足無く摂取する必要があります.それらの栄養素が,三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)と微量栄養素(ビタミン・ミネラル)である事は,今では小~中学校の家庭科・授業などで学習しますので誰でも良く知っていますが,昔,例えば,明治時代(1868年~1912年)以前の人々はあまり良く知りませんでした.

事実,エネルギー源として重要な三大栄養素の存在については,ほぼ19世紀までに明らかになっていましたが,微量栄養素であるビタミンについては,20世紀以降の栄養・食品科学関連分野における多くの研究成果により初めて明らかになりました.すなわち,20世紀初頭,1906年頃に英国のホプキンス*1は,三大栄養素とミネラルを主成分とする合成飼料と,それに更に牛乳を加えた飼料とでネズミを飼うと,前者の飼料ではネズミは非常に弱々しく成長も大変遅かったのに対し,後者の飼料ではネズミは元気で,順調に成長することが分かりました.つまり,この発見は,幼いネズミが普通の健康な状態で,正常な成長を維持するのに必要な未知の栄養素が,牛乳の中に存在する事を強く示唆しました.

その後1915年頃に米国のマッカラム*2がその栄養素として油に溶けやすい「脂溶性因子A」と水に溶けやすい「水溶性因子B」の2種類が存在する事,また,脂溶性因子Aはバターや肝油にも含まれている事を明らかにしました.

さらに,1919年頃に英国のドラモンド*3は,オレンジ果汁中に抗壊血病作用を有する栄養素(水溶性因子C)を発見し,それを翌年「ビタミンC」と命名しました.その際,彼は,このような微量栄養素が,将来,更に発見される事を予期し,前述した「水溶性因子B」の命名に利用されていた用語「ビタミン」をこれら微量栄養素に共通の接頭語とする事,および「ビタミン」の欧文表記 “vitamine” を “vitamin” に変更する事を提案しました.

なぜなら,表記を“vitamine” とすると,化学的にはvital amineという生命活動(バイタル)に必須のアミン類(アミノ基を有する塩基性化合物)を意味します.しかし,それ以前に発見されていた脂溶性因子Aおよび水溶性因子Cは,既にアミノ基を有していない事が分かっていたので,酸・塩基性を示さない普通の中性物質なども含められるように,ドラモンドは“vitamine” の最後の1字である “e” を削除した “vitamin” を共通の接頭語として命名するように提案したのです.そして,脂溶性因子A,水溶性因子B,水溶性因子Cを,それぞれビタミンA,B,Cと命名しました.

なお,抗くる病作用を示す物質が新たな栄養素である事を証明し,その栄養素に「ビタミンD」と命名したのは,ビタミンAの発見者でもある米国のマッカラムでした(1925年頃)*2.その同じ頃,米国のエバンス*4とビショップ*5によって,欠乏するとシミ・ソバカスや不妊などの原因になるビタミンEが発見されました.このように,発見された順番にアルファベットを割り振り,名称を容易に決める事ができたのは,ビタミンEまでで,それ以降に発見されたビタミンには,この単純・明解な命名法は,実際には使用しにくい点もあり,あまり利用されていないのが実状です.(注)


*1:F. G. Hopkins(1861~1947年)
*2:E. V. McCollum(1879~1967年)
*3:J. C. Drummond(1891~1952年)
*4:H. M. Evans(1882~1971年)
*5:K. S. Bishop(1889~1975年)

注:

現在,ビタミン名と化合物名の両方が,適宜使用できるようになっています.

すなわち,水溶性ビタミンであるビタミンB1,B2,B6,B12,C,および脂溶性ビタミンであるビタミンA,D,E,Kは,ビタミン名がそのまま使用される事が多く,水溶性ビタミンであるナイアシン,パントテン酸,葉酸,ビオチンは,化合物名で使用される場合が多いようです.アルファベットのF以降では,実際には,“K” 以外はほとんど利用されていません.

[倉田 忠男]